寺山修司は「奴婢訓」について、次のように書き記している。
この作品は1978年1月、晴海の東京国際貿易センターで、公開ワークショップとして試演され、同年2月、アムステルダムのメクリ・シアターで初演された。その後、ロッテルダム、ライデン、グローニンゲン、ナイメーゲン、ミドルバーグ、アーヘン、ハーレン、デンバーグ、ユトレヒト、エンスケデーなどオランダの各都市のほか、西ドイツのハンブルグ、ベルギーのブラッセルなどで巡演し、4月にはロンドンのリヴァーサイド・スタジオでロングランした。
帰国後、同年11月、東京国際貿易センターで、ヨーロッパ凱旋公演として国内初演を行った。1979年には、イタリアのスポレート・フェスティバルに招かれて、スポレート、フインツェ、ビアレンジオなどで上演。1980年6月にはアメリカ・チャールストンの「二つの世界」国際演劇祭に参加した後、ニューヨークのラ・ママで上演された。このほか国内では、京都の大映撮影所、1982年7月、利賀フェスティバルなどで再演。同年10月、パリのシャイヨー宮で、パリ初演を果たした。すでに公演回数100を超える天井桟敷の代表作品の一つである。
ちなみに1978年、ロンドンでの「奴婢訓」を見た、今や世界の最高の演出家として評価の高い、サイモン・マクバーニーはその時の衝撃を次のように書き記している。
1970年代末、まだ大学にも入ってなかった頃、私は幸運にも寺山修司と天井桟敷を見ることが出来た。ロンドンはリヴァーサイド・スタジオでの「奴婢訓」だ。これは驚いた。日本語は一言も解さない私だったが、とにかくそれまでのどのような演劇体験も、あの時私が見たものに対する心の準備を与えてくれなかったのだ。強烈な一撃をくらったような気分だった。
「かつて体験したことのないスリリングなスペクタクル」(ザ・タイムズ))
「過去1年間の中でも希有な最高の舞台」(ニューヨーク・ポスト)
「このシュールな夢は一般の観客も取り込む力を持っている」「プレイアンド・プレイヤーズ」とその舞台は世界中で絶賛された。
2005年は寺山修司 生誕70年、そして没23回忌になります。時代の23年前を歩いていた寺山修司が、今や若者たちにとって懐かしくも目新しい存在として注目を集めている。
演出/音楽:J・A・シーザー(天井棧敷で寺山さんと一緒に共同演出を、そして音楽を担当)の「奴婢訓」は主人の不在の館で主人になりたい奴婢たちがほんのつかの間、順番に主人を演じるという形で場面が展開する。主人の象徴である金の靴をめぐって奴婢たちが大バトル。はたして金の靴は誰のものに・・・
「奴婢訓」は寺山修司の代表作で「ヴィレッジボイス」において80年最優秀外国演劇賞を受賞している。その舞台は初演されてから既に20年以上の時が過ぎているが、どの場面も鮮烈で幻想的であり、そのイマジネーションはいささかも色褪せることがなく、わたしたちをその悪夢に取り込んでしまう力を持っている。素晴しい歌声ダリアを演じる旺なつき、今回初参加のダンサー能美健志、不思議な魅力の蘭妖子、サルバドール・タリと個性のある俳優が勢ぞろい。 |